緑の悪霊 第12話


ミレイの書類関係が一段落し「書類はこまめに出してください!」と、一頻り説教し、こんな夜遅くに女性を一人で返すのは危険だと、寮の近くまで送ることとなった。
雑談をしながら玄関まで行くと、スザクが2階の空き部屋からひょっこり顔を出した。

「ルルーシュ、ドコイクノ?」

コンナ時間ニ、二人デ何処行クノカナ?
ニコニコ笑顔でスザクは尋ねた。
ルルーシュは気づいていないが、言葉は完全に棒読みだし、その目は笑っていない。自分がここにいるというのに女性と二人で外出しようとしている姿に、嫉妬という名のどす黒いオーラが隠しきれずに駄々漏れになっていた。
あらー、ホント解りやすいわよねー。な~んで皆これに気づかないのかしらねぇ?と、ミレイはニコニコ笑顔でスザクを見た。

「ん?ああ、生徒会の仕事が終わったから、会長を送ってくる」

すぐ戻るから待っててくれ。
その言葉に、ニコニコ笑顔が硬直し、スザクは慌てて駆け寄ってきた。

「ま、待ってルルーシュ!送るって、こんな暗いのに会長を寮まで!?だめだよ!危険過ぎる!!」

何考えてるんだよ!!

「何を言ってるんだ?女性一人では危険だから俺が送るんだろう?」

いくら安全と言われている学園敷地内とはいえ、俺が女性を一人で返すと思っているのか?と、わずかに眉を寄せた。
ルルーシュはスザクの言葉を、ミレイの身の安全を考えた言葉だと完全に勘違いしており、そうじゃない、違うんだとスザクは身悶えた。
そんな姿をミレイはニコニコ笑顔で楽しんでいる。

「違うよ!ルルーシュ、君の話だよ!行きは二人でも帰りは一人だろ!だから君が危険なの!大体、君の腕力で、不埒な輩に勝てると思ってるの?」

無理無理!絶対に無理!!ルルーシュには無理!!!

「・・・おまえ・・・もしかして俺を馬鹿にしてるのか?」

すっと目を細めたルルーシュは、低い声でそういった。
するとスザクは、しまった機嫌を損ねたと、さっと顔色を変えた。

「ち、違うよ!僕は君が心配なだけだよ!!」

何かあったらどうするんだよ!
必至にルルーシュを説得するスザクの姿を見て、あー、私のことは心配しないわけね?と、ミレイは思わず乾いた笑いを浮かべた。
まあ、ルルーシュの体力の無さは周知の事実ではあるけど、フェミニストを気取っているのだから、ここはまず女性であるミレイを気遣うべきなのに、今のスザクにはルルーシュしか見えていないようだった。

「俺は大丈夫に決まっている!さ、行きましょう会長」

ミレイを促し、クラブハウスを出ようとしたルルーシュを、スザクは慌てて止めた。

「それなら僕が行くよ。僕なら何かあっても大丈夫だしね」

だから、君はここにいて。

「何なんだ!俺だと大丈夫じゃないと!?」
「例えば、アメフト部の先輩が物陰に隠れていて襲ってきたら、君、対処できるの?」

あの筋肉むきむきの男に襲われたら・・・ギアスでどうにかできるが、ギアスなしならNOというしか無い。そしてミレイが傍にいるのだ、ギアスを必ず使える保証はない。
ルルーシュは苦虫を潰したような顔をした。
そんな二人のやり取りを見て、ミレイはふと思った。
そういえば、先日アメフト部の3年が大怪我したわよね。階段から落ちたとか言ってたけど、あれってもしかしてルルちゃんを狙ってるのに気がついたスザクくんが制裁を加えたのかしら?そういえば彼、結構熱い視線をルルちゃんに向けてたわよね。とミレイは作り笑いを浮かべながらスザクを見た。

「出来ないだろ?だから、僕が行くよ」
「・・・わかったよ。会長、スザクが居れば大丈夫とは思いますが、気をつけて帰ってくださいね」
「大丈夫よ、ね、スザクくん」

帰るルルーシュの後を追ってクラブハウスまで見届ける手間も省けるし。

「もちろんです」

表面的には互いに笑顔を浮かべ、内心では互いに敵だと認識している二人は、仲良くクラブハウスを後にした。
二人の背中を見送っていると、ルルーシュの携帯に着信が入った。




「・・・どうしてここに居る、C.C.・・・」

低く、低く、ものすごく低い声でルルーシュは唸るように言った。
ここはナナリーの寝室。
その部屋をピザ臭くさせた張本人は、チーズくんを抱きしめながら、ちらりとナナリーを見た。
この部屋の主は優雅に紅茶を口にしている。
余計なことを話したら・・・理解ってますよね?
何も口にはしないが、無言の圧力を掛けられ、C.C.は盗聴のことも、どす黒い嫉妬と独占欲駄々漏れにさせながらも何故かルルーシュにだけは気づかせない二人のことなど口にすることはできなくなっていた。
だから当り障りのない内容でルルーシュを納得させることにする。

「どうしてと言われてもな。お前なら理由ぐらいわかるだろう?お前が枢木と部屋に来た時、私はまだ就寝中だった。私の存在を軍に知られる訳にはいかないし、お前だって友人にどう説明するつもりだった?お前のシャツにお前の下着を身に着けた私のことを。だから、気を利かせてくれた咲世子が助けに来てくれたんだ」

ちなみに今はシャツ、下着、スラックスとすべてルルーシュのものだ。
こんな姿スザクが見たら発狂するのは間違いない。
1分1秒でも早く脱がせるため、鬼のような形相でC.C.の衣服をはぎに来るだろう。
ハッキリ言えばナナリーも相当ご立腹だが、既にこれがいつものC.C.のスタイルで、ルルーシュが許している以上今まで口に出来なかった。だが今知ったという事にし、今後はC.C.専用の服を用意し、二度とルルーシュの服を着させるつもりはなかった。

「咲世子が?」

ルルーシュはピクリと眉を動かした後、咲世子を見た。

「申し訳ありませんルルーシュ様。以前からC.C.様がルルーシュ様のお部屋に居ることは存じておりました。そして、C.C.様が人から隠れて動かれていることも。理由は存じませんが、スザク様に知られないほうがいいと判断いたしました」

咲世子は優秀だ。
アッシュフォードが二人につけただけあり、メイドとしての仕事だけではなく、秀でた身体能力も併せ持っていた。
不埒な輩が侵入した時に備えて二人の護衛も兼ねているのだ。
その咲世子なら、窓から室内へ進入することなどわけもないだろうし、あれだけ完璧に室内を清掃し、消臭も完璧な状態にすることなど容易いだろう。
今までC.C.の存在に気づいていながら、そのことに対し決して出すぎた発言をする事無く、かつ、緊急時に独自の判断をし、危機を回避した。
今までメイドとして、ナナリーの介助役として優秀だとは思っていたが、その能力は予想以上のものだったのだと改めて痛感し、彼女がナナリーのそばに居てくれることを感謝したのは言うまでもない。

「有難う御座います咲世子さん、助かりました」

人を疑ってばかりのルルーシュは、嘘を見抜けるほど感受性が高く、純真で明るい俺の天使ナナリーの傍にいる咲世子は嘘をつかないという謎フィルターを発揮し、咲世子の発言を全面的に信用し、素直に感謝の気持ちを口にした。
その姿に、ナナリーとC.C.はほんの少しだけ罪悪感を感じ、こんなに騙されやすいルルーシュは自分がしっかり守らなければと心のなかで誓いを立てていた。

「いえ、ルルーシュ様の恋人であるならば、お助けするのは当然でございます」

突如放たれた咲世子の爆弾に、ルルーシュはぴしりと固まった。
そうなのだ。
ルルーシュの部屋のベッドを占拠し、しかもあられもない姿で寝ていたのだ。どう考えても彼氏服を着てくつろいでいた彼女。
だが、ナナリーの前でそんなこと疑われるなど耐え切れん!

「違うよ咲世子さん。彼女は俺の恋人でも何でもない。ただ・・・以前ブリタニア軍に追われている所を俺が助け出したんだ。それからは軍から隠れるため、ここで暮らしていた・・・済まないナナリー。お前にも言わずにいて」

ルルーシュは少しためらった後、そう説明した。
だからスザクからも隠れなければならないんだと、自分たちも隠れ住んでいるというのに、危険な因子であるC.C.を傍においている事を謝罪した。
だが、そんな情報、ナナリーも咲世子もとうの昔から知っていた。
まさかゼロだということも、ギアスのこと、コードのことも含め全ての情報が駄々漏れになっていて、ナナリーたちが事細かに理解しているなんて・・・絶対気づくはずがない。
さて、ナナリー達がどう誤魔化してこの場を鎮めるのか、お手並み拝見と行こうか。

完全に傍観者モードに入っているC.C.は既に冷めてしまったピザを口にした。

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